皆様は、「任意後見制度」という言葉をご存知でしょうか?
私たちが生活している日本においては、少子高齢化が進み、今まで人類が経験したことのない「超高齢化社会」を迎えつつあります。
少子高齢化とともに進行した核家族化により、高齢者のご夫婦だけの世帯、高齢者の単身世帯、お子様がおられないご夫婦や独身者の方の人口も、増加の一途をたどっています。
これらの方々が自分の将来について一番気にされているのは、配偶者(夫・妻)や自分自身が認知症を発症したり(85歳以上の高齢者の4人に1人が認知症を発症するといわれています)配偶者に先立たれて自分一人で生活しなければならなくなった時、いったい誰が自分の世話をしてくれるのだろうか?という問題ではないでしょうか。
そういった状況が発生する前に、自分の財産を自分に代わって管理したり、自分が入所する老人ホームとの間で自分に代わって契約を取り交わしたりしてくれる人があなたの周りにお見えになりますか?こうした不安を解消してくれるのが、以下に述べる「任意後見契約」です。
では、任意後見契約とは、どういった内容の契約なのかご紹介していきましょう。
任意後見契約
任意後見契約とは、簡単に言うと、自分が将来認知症などの病気により、物事を判断する能力が不十分になってしまった場合に備えて、あらかじめ契約により自分に代わって様々な行為をする権限を有する代理人を自分の意思で定めておくという内容の契約です。
そして、自分が定めた代理人が自分の財産を横領したりすることがないように、裁判所が、その代理人を監視する人を選任し、その監督者が代理人の行動をチェックするという仕組みになっています。ここでいう「代理人」のことを「任意後見受任者」と呼び「、監督者」のことを「任意後見監督人」と呼びます。任意後見契約の締結からその契約の効力が発生するまでの流れは、下記のとおりです。
- 司法書士等の専門家に任意後見契約についての相談をする。
- 任意後見受任者を誰にするのかを検討する。任意後見受任者は、自分が信頼できる親族や友人、もしくは私たち司法書士のような法律専門家を選ぶことが一般的です。任意後見受任者については特に資格制限はありません。
- 司法書士等の専門家とともに、任意後見受任者が自分に代わって行うことができる行為を選択する(代理行為目録の作成)
- 任意後見受任者との間で後見事務遂行についての報酬額を決定する。管理する財産の内容にもよりますが、通常は月額2万円~5万円程度です。
- 任意後見契約書を作成し、任意後見受任者との間で契約を締結する。お客様の意向を反映させた任意後見契約書を司法書士が作成します。
- 公証人役場において、公正証書をもって任意後見契約を締結する。任意後見契約は公正証書をもって締結しなければなりません。 この際に公証人の手数料として数万円が発生します。
- 公証人が法務局に対して、任意後見契約に関する登記を嘱託する
- 任意後見受任者は定期的に本人と連絡をとったり面談するなどして、本人の生活状況や健康状態・判断能力の衰えがないかをチェックする(見守り)。
- 本人の判断能力が不十分となった段階で、任意後見受任者が家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の申立てを行う。任意後見監督人は任意後見受任者を監督する立場の者で、裁判所が職権によって選任します。
- 任意後見監督人が選任されると同時に、任意後見契約の効力が発生する。任意後見契約の契約の効力は、任意後見監督人が選任された時点で効力を生じます。契約の効力発生後の任意後見受任者のことを「任意後見人」と呼びます。
- 任意後見人が本人に代わり、「代理行為目録」記載の行為を行いながら、本人の財産を管理する。本人の財産は、原則として本人以外の第三者のために使用することはできません。
- 任意後見人が定期的に任意後見監督人に対し事務報告書を提出し、任意後見監督人は家庭裁判所の要請に応じて、監督状況を裁判所に報告する。任意後見人は任意後見監督人の監督に服し、任意後見監督人は家庭裁判所の監督に服することになります。
財産管理委任契約
財産管理契約とは、たとえば、物事の判断能力はしっかりしているが、身体障害や老齢により、金融機関などに本人が赴くことができない場合に、本人(委任者)から一定の範囲の代理権を与えられた代理人(受任者)が本人に代わって、預金通帳から本人の生活費を出金するなどの行為を行うことができるよう、本人と代理人との間で書面をもって取り交わされた本人の財産の管理に関する契約です。金融機関等の第三者に代理人としての権限を証明するために、この契約はできる限り「公正証書」で締結することが望まれます。この契約は、任意後見契約の効力が発生する前の段階で、上記のような事情がある場合に、任意後見契約に付随して締結することが一般的です。
死後事務委任契約
任意後見契約は本人の死亡によって終了します。本人に身寄りがない場合や、身寄りがいても本人との関与を拒否しているような場合には、本人の葬儀・埋葬・法事・老人ホーム等に対する未払金の支払いなどについての不安を抱えられている方々が多くお見えになります。
そこで、任意後見契約に付随して、死後事務委任契約を別途締結することによって、これらの不安を解消することが可能となります。
本人の意思がはっきりしている段階で、公正証書等の書面によって、死後の事務に関する委任契約を締結しておくことにより、安心して天国に行くことができるでしょう。
親亡き後の問題について
知的障害者や精神障害者を子に持つ親が、子の財産管理や身上監護を行っている場合に、その親が死亡したり認知症を発症して、自ら子の支援をすることができなくなった後に、どのようにして、その子の生命・財産・生活を守っていくべきかという切実な問題が生じます。
例えば、親が子の法定後見人等に就任し、司法書士等が任意後見受任者として親との間で任意後見契約を締結する方法により、この問題を解決することが可能となります。司法書士等が、そういった境遇にある親子を見守りつつ、状況に応じて必要な支援をしながら、徐々に子との間に信頼関係を築くことにより、親亡き後も子の新たな法定後見人等の選任の申立てを行うことができ、継続的に知的障害や精神障害を持つ子の権利や財産を保護することが可能となります。
司法書士(司法書士法人リーガルホーム)の役割
上記の各契約についての相談・説明から始まり、上記1.2.3の各契約を連結させることによって、本人の保護をはかることが、司法書士の役割です。
また、本人に相続人が存在しない場合などは、本人が死亡した後の遺産の帰属先を定めるため、本人との相談を通じて、遺言書(公正証書遺言)を作成するなどのお手伝いをさせていただくこと、その遺言の執行者として遺言の内容を実現させることなど、さまざまなお手伝いをさせていただくことが可能です。
ご本人様が信頼できる身内の方がおられないケースでは、私ども司法書士が任意後見受任者(任意後見人)として、ご本人様の財産管理や身上監護を行うことも可能です。今後、団塊の世代の方々が75歳以上の年齢を迎えることになり、任意後見制度の活用がより活発になると予測されます。
司法書士としては、ホームロイヤー(家庭の法律家)としての役割を担っていくことも多くなるのではないかと想定しております。今までの司法書士は、「登記」という狭い分野の専門家でしたが、これからの司法書士は簡易裁判所の訴訟代理権を含め、高齢化する社会を支援するサポーターとしての役割を担っていく必要があると、私どもは考えております。
ただの「代書屋」ではなく、町の法律家、家庭の法律家としての職責を果たせるよう、日頃から勉強を重ね、それらの知識や経験を、社会に還元していく必要性を、日々強く感じております。