相続放棄とは、被相続人(お亡くなりになられた方)の「プラスの遺産(積極財産:不動産・預貯金・現金・株式など)」と「マイナスの遺産(消極財産:借金・延滞税・保証債務など)」の相続権の全部を放棄し、被相続人の相続に関し、初めから相続人ではなかったことにする裁判所を通して行う手続きです。
被相続人が多額の借金を遺してお亡くなりになられた場合や被相続人にこれといった遺産が無く借金しかない場合にこの手続きを行うケースが圧倒的に多くを占めます。
相続放棄の可否についての確認
相続放棄の手続きを行うには、以下の要件を満たす必要があります。
相続放棄申述書の作成・提出
必要書類を収集したうえ、相続放棄の申述書を作成し、家庭裁判所(被相続人が死亡した時に住民登録していた市町村を管轄する裁判所)に申述書を提出します。添付書類としては原則として下記の書類が必要となります。
相続放棄申述書の添付書類
- 1被相続人の除籍謄本(戸籍謄本)…被相続人の死亡の事実を証明するため
- 2被相続人の住民票の除票または戸籍の附票…死亡地(管轄)の確認のため
- 3被相続人と申述人(相続人)との間に相続関係が存在することを証明する戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本等申述人(相続人)が第3順位の相続人(兄弟姉妹等)の場合には相続関係を証明する書類が多数になるため、書類収集は専門家である司法書士等にご依頼下さい。申述書の記載内容は定型的なものとなっており、簡単に記入できます。
- ただし、被相続人が死亡した時から3か月を過ぎてから相続放棄の手続きを行う場合や、第3順位の相続人が相続放棄の手続きを行う場合には、あらかじめ、そのいきさつを裁判所に対し詳細に説明する必要があるため(後日裁判所から送付されてくる「照会書」に対応するため)、「申述の実情」の部分を「別紙」を用いて詳細に記載します。その場合には、専門家である司法書士等に書類作成を依頼した方が確実です。また、債権者からの催告書や督促状などの写しを提出する必要性が生じるケースも存在します。
家庭裁判所からの照会
申述書を裁判所に提出したのち数週間以内に家庭裁判所から申述人(相続人)の住所地に「照会書」が送られてきます。そこには「回答書」が同封されており、この「回答書」に必要事項を記載して、裁判所に返送する必要があります。回答書の内容は裁判所に提出済みの申述書に記載した事項の再確認となりますので、上述した様に、申述書に「申述の実情」を詳しく書いておくと後が楽になります。
相続放棄申述受理通知書の到達
申述書を裁判所に提出した後のち、相続放棄の申述が受理されると(相続放棄の手続きが完了すると)数週間以内に家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されてきます。この通知は、相続放棄の手続きが完了した旨を申述人に伝えるものです。相続放棄申述受理通知書は再発行できませんので、大切に保管して下さい。
相続放棄申述受理証明書の交付申請
上記4の相続放棄申述受理通知書は「相続放棄の手続きが完了しましたよ」という報告的な通知です。したがって、相続放棄の手続きが完了したことを債権者などの第三者に対し証明するために、あらためて「相続放棄申述受理証明書」を裁判所に発行してもらうように請求し、その証明書を債権者などの第三者に対し提出することとなります。相続放棄申述受理証明書は何通でも、いつまででも、その発行を請求することができます。「債権者の数+1通(自分の控え)」分の証明書の交付を請求することをお薦めします。
司法書士(司法書士法人リーガルホーム)の役割
上記1から5までの手続きを代行(支援)する職業が「司法書士」です。司法書士は、お客様からご依頼を受け、お客様とともに、上記①から⑤までの手続きを行います。
第1順位の相続に関する手続きを熟慮期間内に行うことは簡単ですが、第3順位の相続人が相続放棄の手続きを行う場合や、相続開始後3か月をすでに経過しているケースでは、司法書士がお客様のお役に立てることが多いのではないかと思います。
よくある質問
- 私の父が亡くなり、父と同居していた私の兄から「相続を放棄して欲しい」といわれました。兄の話では、遺産分割協議書をこちらで作成するので、その書類にサインをして実印を押してくれればよいとのことでした。自分の相続分(取り分)が記載されていない(取り分=0)遺産分割協議書にサインをすることと、裁判所で相続放棄の手続きを行うこととは、どのような点が異なりますか?
- 遺産分割協議書に自分の取り分を無し(ゼロ)としてサインすることを「事実上の放棄」と呼び、これはよくあるケースです。裁判所を通して行う「相続放棄」の手続きとの違いは、被相続人に負債(借金)がある場合にその債権者に対して自分は何も相続していないから父の借金を返済する義務はないと主張できるか否かです。たとえ遺産分割協議書に「被相続人の債務はすべて兄が相続する」という記載があっても、この協議の内容は相続人の間の約束事にすぎず、債権者に対しては主張できません。これに対し裁判所を通して行う相続放棄の手続きを行った場合には、自分に借金の支払義務がないこと(自分は被相続人の相続人ではないこと)を主張(対抗)することができます。
相続放棄の手続きを行う要件
例1.被相続人が有していた債権を取り立てて貸金を受領したとき。
例2.不動産や預貯金などを相続して処分したとき。
例3.経済的価値の高い美術品・衣類の形見分けをしたとき。
(要件1)相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分し、もしくは、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながら、あえてその処分をしたこと。
(要件2)限定承認または相続放棄をする前に処分行為を行ったこと。 (2)相続人が、相続の承認または放棄をなし得る期間内に、限定承認もしくは相続放棄をしないで、その期間(熟慮期間)が経過したこと
相続には法定の「順位」というものが存在します。順位については下記のとおりです。
なお、先順位の相続人の全員が相続放棄の手続きを行った場合には、次順位の相続人に相続権が発生することとなるため、原則として次順位の相続人は「先順位の相続人が相続放棄をしたことを知った時」に、「自己のために相続の開始があったことを知った」ことになります。
(相続の順位:※配偶者については説明の便宜上「第1順位」と表記しております。)
第1順位 被相続人の配偶者(夫・妻)及び子(実子・養子)
第2順位 被相続人の直系尊属(父母・祖父母)
第3順位 被相続人の兄弟姉妹
※ 被相続人が死亡する前に、被相続人の兄弟姉妹が死亡していた場合には、被相続人の甥や姪に相続権が発生します。